# 素数はなぜ分解するのか ふつうの整数では、素数はそれ以上分解できない数です。 しかし整数環 $\mathcal{O}_K$ の中に入ると、整数の素数 $p$ が新しい因数を持つことがあります。 ## ガウス整数で見る ガウス整数 $\mathbb{Z}[i]$ では、$5$ は次のように分解します。 $ 5=(2+i)(2-i) $ これは、$2^2+1^2=5$ という表示と対応しています。 整数の世界ではひとつだった素数 $5$ が、複素平面上の格子 $\mathbb{Z}[i]$ では二つの方向へ分かれる。 一方で、$3$ は $\mathbb{Z}[i]$ の中でも素数として残ります。 また $2$ は、単元を除いて次のように重なって分解します。 $ 2=-i(1+i)^2 $ 素数には、分かれるもの、残るもの、重なるものがある。 これが代数的整数論の最初の地形です。 ## 本当の主語はイデアル 数そのものの分解だけを見ると、すぐに例外が増えます。 そこで代数的整数論では、整数の素数 $p$ を元としてだけではなく、イデアル $p\mathcal{O}_K$ として見ます。 一般に、数体 $K$ の整数環では、 $ p\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{p}_g^{e_g} $ という形で素イデアルに分解されます。 ここで $\mathfrak{p}_i$ は $\mathcal{O}_K$ の素イデアル、$e_i$ は分岐指数です。 さらに各 $\mathfrak{p}_i$ には剰余次数 $f_i$ があり、 $ \sum_{i=1}^g e_i f_i=[K:\mathbb{Q}] $ が成り立ちます。 ここで主語は、元としての $p$ から、イデアルとしての $p\mathcal{O}_K$ に移っています。 この言い換えが、分解を安定して扱うための第一歩です。 ## 見えてくるもの 素数が分解する、という現象は、単なる因数分解の話ではありません。 それは、$\mathbb{Z}$ から $\mathcal{O}_K$ へ移ったときに、ひとつの点だったものがどのような枝を持つかを見る話です。 この見方を安定させるために、次は [[イデアルという主語]] を見ます。